三日月の夜に 愛に恋

月語りと好き語りでお月愛

つきこの本棚から〜ホテルローヤル〜北の国のホテルにて

 

 

f:id:crescentmoon117:20201117172614p:image

 

 

北の国で街の中を歩きながら

ふらりと立ち寄った書店にて

 

 

私の目に飛び込んできた

あまりにも 素っ気ない

「サイン本です」のPOP

 

 

遠慮がちに平積みにされた本

何気に手にとって表紙を捲る

 

 

 

f:id:crescentmoon117:20201111075055j:image

 

 

 

桜木紫乃」って人のサイン本みたい、と私が言うと、一緒にいた母が言った。

 

 

ああ、その桜木紫乃さん、知ってるわ。

実家がラブホテル経営してるとか何とか・・

 

 

北海道では既に有名な人みたいだ。

そう言えば、確かこの本・・

もうすぐ公開になる映画のはずだ。

 

 

 


いい歳してかわいこぶる訳じゃないけど、「ねぇ、昨日の夜何食べた?私はさ〜」みたいな軽いノリで自慢げに下ネタを話す人が私は昔から苦手だった。それなのに、そんな話をわざわざしてくれる人が過去の職場に何人かいた。誰も頼んでもいないのに。

 

 

例えそれがどんなに綺麗な人であっても、話を聞いた途端に私の中の彼女の品格はだだ下がり。まぁ、その手の話が好きな人に美しい人なんていなかったけれど。

 

 

今まで親しくしてきた人にはそんな友だちなどいなかったのは幸いなこと。

 

 

だって、それは当人たちだけの秘め事なわけで。そんな秘密の部分のことは他人に話すことなんかじゃない。それに、相手がいることで、少しでも相手のことを考えられる人ならそんな話はしないでしょうから。

 

 


だけど、この本は書棚に戻すことが出来なかった。それは、何となく想像がついてしまう暖かな陽だまりのような場所とはおよそ無縁であろう本の内容ではなく、作者の「桜木紫乃」と言う人に興味を持ってしまったから。

 

 


第149回直木賞受賞作品
ホテルローヤル桜木紫乃

f:id:crescentmoon117:20201111074730p:image

 

 

 

生れて三年ほどのことで

記憶など全く無いけれど

私は北の国釧路の生まれ

 


偶然にも作者と私は同じ年齢

出身が同じ釧路と言う不思議

 

 

 

 

舞台は北の国の湿原を背に建つラブホテル

そこは非日常であり日常の延長でもあって

 


彼氏から投稿するヌード写真撮影に誘われた女性や

貧乏寺を維持するために檀家たちと関係を持つ住職の妻や

舅との同居により、夫と肌を合わせる時間がない専業主婦や

親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師や

働かない十歳年下の夫を持つ、ホテルの清掃係の女性の女性とともに

 

 


実家がラブホテルを経営していたという

桜木紫乃さんがふと垣間見えた気がした

 


ホテルローヤル


https://youtu.be/YS0QyqayKMA

 

 

原作者桜木紫乃は釧路に実在するホテルローヤルの経営者の娘。高校時代はそのホテル内に自宅があり、帰宅後は清掃作業にあたっていたという。多くの男女を垣間見てきた自分の体験を基に、桜木は物語を紡いでいく。

 

 


所謂そういうホテルが、素敵リゾートホテルなどとは違うものだということを、私はいったいいくつの時に知ったのだろう。

 

 

記憶にあるのは、小学生の頃のこと。温泉にでも行く時のことだろうか。父の運転する車に乗って窓の外を眺めていた私は、目に付いた建物や看板の字を口に出して読んでいった。

 

 

その中にあったのが「モーテル」という文字。聞いた事がない言葉を何だろうと不思議に思った私は母に聞いた。

 

 

「お母さん、モーテルって何?」

 

 

「ホテルのことだよ。」

 

 

「ふーん」

 

 

母が極めて明るくさらりと返してきたからか、私はそれ以上何も思わなかった。その時は、そんな名前のホテルがあるんだと思っただけだ。

 

 

そして、いつしか私は理解した。そういったホテルは、高級感のあるキラキラした素敵なリゾートホテルとも、ビジネスホテルとも違うことを。

 

 

出来るだけ目立たないようにと思いながら、センスの悪さで逆に悪目立ちしてしまうようなそのホテルの中には、きっと他人には言えない秘密が含まれていることを。

 

 

そして、ホテルの名前にはどこか寂しげで悲しげな憂いを帯びていることにも、私は薄々気がついていた。

 

 

 

f:id:crescentmoon117:20201117172631p:image

 

 

 

お母さんがスナックのママだったり、実家が何かしらのお店をやっていた友だちはいたけれど、実家がラブホテルなんて人は一人もいなかった。

 

 

例えそんな友だちがいたとして、私だったら実家のことを何か聞けただろうか。きっと知らないふりをしていたに違いない。

 

 

もし、それが自分のことだったら絶対に知られたくいと思う。理由は・・恥ずかしいから。そこを訪れる人たちが何をするのかがわかる様になると余計に恥ずかしくて嫌だったろうな。

 

 

そしていつの日か、自分がその場所に訪れることになるなんて、その頃は考えもしなかった。

 

 

でも・・

 

 

ホテルローヤルみたいな場所を必要としている人はいる。利用する人は勿論のこと、ホテルに関わる人がいる。ホテルの清掃をする人。ホテルを経営する人。それは、生きるために。

 

 

小説はと言うと、事前に想像した様な、何とも言えない切ない話が多かった。そして、やっぱり他人の秘め事なんか、知らなくていいとも思った。

 

 

 

映画公開にあたり、先月末の道新(北海道新聞のことを道産子はこう呼ぶのです)に書き下ろされた記念エッセイの中の一文が突き刺さる。

 

 

四十年経ち、父にも母にも黙っていたことをこうして文章にしている。さまざまな傷と隣り合わせで過ごした日々が、机に向かえば鮮やかに蘇ってくる。

「もうひとつのホテルローヤル

 

 

 

 

私たち夫婦は結婚する前の年の夏休みに

突然と思い立って釧路へと旅に出かけた

 

生まれ故郷に初めて訪れたワクワク感は

夏とはとても思えないような薄ら寒さと

灰の色をしたどんより空にかき消された

 

行き当たりばったりの旅の為に

当日泊まるホテルの予約もせず

 

残り最後のホテルに空室がなかったなら

そこに泊まっていたのかもしれない・・

 

もしそうなっていたら旅の思い出は

また違うものにとなっていたのかも

 

ホテルローヤルを読み終えたとき

灰の色した釧路の空を思い出した

 

 

 

「辛いことがたくさんあったから物語を書くことができた」

 

 

思い出したのは、何かの映画で観た言葉

 

 

 

それが事実だとしたら

私には物語など到底書けるわけがない

 

 

それが事実だとしたら

私には感謝しなければならない事がある

 

 

 

物語が書けないことにも

 

 

 

 

f:id:crescentmoon117:20201117172643p:image

 

 

 

 

実家がラブホテルじゃなかったことにも